この照らす日月の下は……

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 混乱に乗じてモルゲンレーテの秘密工場へと侵入する。そして、そこにあるであろう地球軍のMSを確保し、離脱する。
 それがアスラン達に与えられた指示だ。
 だが、何事にも想定外と言うことはある。
「ずいぶん流されたな」
 予想以上に住宅街へと近づいた、とアスランはつぶやく。
「中心部の空気の流れがプラントとは違っていたな」
 あれはどういう理由なのか、とイザークが眉根を潜めている。
「おそらく空気の浄化のためでしょうね。強制的に流れを作って浄化装置に導いているのでしょう」
 父親が技術系のトップだからだろうか。ニコルがさりげない口調で自分の推測を口にする。本人は音楽系なのにな、とアスランはどこか他人事のように心の中でつぶやいた。
「そういった点は認めるべきか? 少なくともザフトの開発区域よりは空気がうまい」
 ディアッカの言葉には誰も反論しない。
「確かに。ちょっとうらやましいな」
 ラスティが苦笑ととともに付け加えたセリフにも、誰も文句を言わなかった。
「あるいは……レポートにあったように本当に一般の民衆は知らないのかもしれないな。モルゲンレーテの技術者でも知らない人間は多いのかもしれない」
 アスランはそう告げる。
「民衆はともかく、技術者はどうだろうな」
 イザークが即座に反論してきた。このままではいつもの口論に発展しかねない。
「どちらにしろ、民間人には極力被害を出さないようにすればいいだけでしょう」
 それを懸念したのか。ニコルが二人の間に割って入ってきた。
「そうだな。そろそろミゲル達も動き始めるだろうし。さっさと移動しようぜ」
 ディアッカも同じ考えだったのか。珍しくもニコルの肩を持った。
「……そうだな。こんなことで失敗しては意味がない」
 自分たちの勝利のために、とイザークも引き下がる。
「地球軍がこれ以上力を持つのは阻止しないといけないな」
 そうなれば、さらにこの戦争が長引くだろう。その結果《キラ》を探すのが難しくなる。それは避けたい。
「幸い、ここは森林地帯だ。目立たずに移動できるはず」
 急ごう、とアスランは口にする。
「わかった」
 その言葉とともに五人は移動を開始した。

 予想以上に人が多かったのか。ここまで設置されているすべてのシェルターが規定人数を収容してロックされていた。
「……もう走れない」
 まっ先に弱音を吐いたのはフレイだ。
「負ぶさる?」
 そんな彼女にキラが問いかける。
「大丈夫?」
「僕はね。少なくともサイよりは体力あるから」
 フレイを安心させるようにキラは微笑む。
「……キラ。いくら本当でも、せめて格好ぐらいつけさせてくれよ」
 即座にサイが文句を口にした。
「あきらめなさい」
 それをミリアリアが一刀両断する。
 そんな会話を交わしていたときだ。
「キラ! 無事だな?」
 耳になじんだ声が割り込んでくる。視線を向ければ、珍しくも汗だくになっているカナードの姿が確認できた。
「兄さん!」
「おじさん達から連絡をもらってやってきたんだが……間に合って良かった」
 彼はそう言いながら近づいてくる。
「ともかく避難するぞ。そちらの皆も一緒についてこい」
 そう言いながら彼はさっさとフレイを抱き上げた。ただしお姫様だっこではなく半ば肩に担ぐような態勢だ。
「近くに要人用の小型シェルターがある。サハクが管理しているものだから、使ってもかまわないだろう」
 その言葉とともに彼は歩き始める。
「いいの?」
「あの双子がお前とその友人を守るためと言えば文句を言うと思うか?」
「……言わないよね、お二人なら」
「そう言う事だ」
 この会話を耳にした周囲の面々がどのような表情をしていたのか。キラは会えて見ない振りをしていた。


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最遊釈厄伝